2013/02/15

7 ナンフェスの夢 (前篇)

 時季外れですが「サンタはいる」と答えた新聞のお話を。ニューヨーク 立野純二さんの署名記事からです(朝日新聞2009年12月19日)。

 19世紀末、ニューヨークに住む8歳の少女が地元の新聞社に1通の手紙を送った。
 「友だちがサンタクロースなんていないと言います。本当のことを教えてください。サンタはいるんでしょうか。」
 それを受け取った「ニューヨーク・サン」紙の編集局は本物の社説で答えた。
 「サンタはいるよ。愛や思いやりの心があるようにちゃんといる」「サンタがいなかったら、子どもらしい心も、詩を楽しむ心も、人を好きになる心もなくなってしまう」「真実は子どもにも大人の目にも見えないものなんだよ」

 少女の名前は、バージニア・オハンロン。のちに教師に成長し、学校の校長先生になって、1971年に亡くなるまで、恵まれない子どもたちの救済に尽くした。
 彼女の名を冠した奨学金制度が今月、ニューヨークのアッパーウエスト地区にある小さな私立学校にできた。貧しい家庭の優秀な子に授業料を支援するという。その校舎は、バージニアがかつて住み手紙をしたためた、レンガ造りの4階建ての家にあった。

 校長のジャネット・ロッターさんは「何かの運命と思った」と私に静かに語った。71年設立の同校は、不動産高騰が続く市内で入居先を転々とし、現在地近く22年前に移った。その後、バージニアの物語を初めて本で読んだ。彼女の手紙に記された住所から、その場所が学校の向かいの廃屋だと気づいた。
 学校の支援者らと息長く資金を集め、外壁だけを保存して再建し、07年に入居した。近代的な校内に往時の面影はない。だが、ここで学ぶ110人の児童の心には「目には見えずとも大切なもの」が生き続けていると校長は言う。

 少女の心の扉を開き、百年の時を超えて人々の想像力のともしびを燃やし続ける一編の記事を生み出す力が今、私たちの新聞にあるだろうか。
 「時代が違いますからねえ」。校長は熟考してから、言った。「メールや携帯電話は広まったけれど、人間らしい対話は乏しいような気がします」
 サンタはいる。そう書ける新聞でありたい、と思う。
 以上で立野純二さんの記事は終わりです。そこでナンフェスの夢は?と問いかけることにしましょう。ナンフェスに「サンタはいる」と答えた「ニューヨーク・サン」紙のようなことが可能なのでしょうか。